「では今日から働きますか、名前は何にします?」ヤクザとヤンキーを混ぜたような容貌で、殆ど眉のない男は私に尋ねた。私は自分の新しい名前などを何も考えず、本当になんにも考えず、私というものを証明できるパスポートだけを持ってここに来た。「何も考えて…
肌寒くなってきたので、「そろそろかしら」と待っていたら、ようやっと金木犀が咲き始めた。 オレンジ色の小さな小さな花の集まりが、あんなにも広い範囲に香りを届けてくれる。嗅ぐと、肺いっぱいにオレンジの小花が舞うように、豊かな気持ちになれるのだ。 …
先日、ほんの気休め程度に心療内科とやらに行ってみた。 適当に話をして、薬を処方されるだけ。風邪や何かと違って、良くなる保証はどこにも無い。その割には中々高くつく診療内容だという偏見を、私は持っている。そのクリニックは、古い雑居ビルの中にあっ…
久しぶりに、以前によく行っていた喫茶店へ行った。 いつも通り、ミルク付きの温かい紅茶を頼む。 紅いような茶色いような、けれど透明の液体。私はこれが大好きだ。 ガラス製のカップの縁を唇に当てただけで、それがどれ程に熱いものか理解する。少しでも冷…
私の父は、酒を飲んでは不機嫌になり、母をよく打っていました。理不尽に家族に怒鳴り散らしておりました。 母は私の成長するのをじっと待って、ただ耐えて、ある日突然に居なくなりました。遠方に住む姉の元へ逃げました。 私は、何も告げられずに置いて行…
別にポエムのような、薄ら寒い詩のようなものを書きたいのじゃない。私の語彙力の低さと才能の無さがそうせざるを得なくしている。そして、薄っぺらい内容も。 ただ、私の今のこの気持ちをどうにも出来ないので、書き落とす事で昇華しようと思っているだけな…
私は何かしら特別な人間で、他の人とは違う存在だと思っているきらいがある。中学生の頃、誰しも思っていた(かもしれない)だろう。自分には何か特別な力があって、世の中の何かを変えられるかもしれない、自分は特別な存在なのだと。 どうやら私は、そのまま…
私が、手紙だとか日記だとか、文を書くのが好きだと言った時、誰かに言われました。 「貴方は幼少期、親に話を聞いて貰えなかったのではありませんか?」 占い師のように言い当てられて、私は言い悩まず素直に「確かにそうです、何故分かったのです?」と訊き返…