ブランコあそび

秋千(ぶらんこ)は春の季語なんだよ

金木犀

肌寒くなってきたので、「そろそろかしら」と待っていたら、ようやっと金木犀が咲き始めた。
オレンジ色の小さな小さな花の集まりが、あんなにも広い範囲に香りを届けてくれる。嗅ぐと、肺いっぱいにオレンジの小花が舞うように、豊かな気持ちになれるのだ。
私はこの季節、この香りが届く度に幼少期を思い出す。
二階にあった私の部屋のすぐ裏に、その高さにまで届く大きな金木犀の木があった。濃い緑色の葉の中に沢山のオレンジ色が点々と見えて、窓を閉めていても甘さが香ってくるようだった。
私は金木犀が大好きだった。

そう言えばと、その人のマンションの近くにも、少し大きな金木犀の木があったのが思い出された。
初めて訪れた時は真冬で、勿論花は咲いておらず、木の枝は丸く丁寧に刈られていた。あの濃い緑色の少し厚い葉は、よく見知った金木犀のものだと思った。
「これはね、もしかしたら金木犀の木かもしれない。今は咲いてないけれど、多分秋かな。秋になったらすごいよ。きみの家の周り、すごくいい匂いになると思う」
私は、まだ何の特徴も無いその真ん丸の木を指差しながら、ふふんと少し得意気に言った。
その人はいつも私を褒めてくれるように、
「そうなんだ、よく分かるね。すごいなぁ」
と感心した様子を見せてくれた。私はこうやってよく得意気になり、その人は感心したように頷いてくれていた。

結局、その真ん丸の緑の木は金木犀だったのだろうか。今はもう何も分からない。きっとその人も忘れているだろう。
ああ、また得意な顔になって、
「ほらね、やっぱり金木犀だった!」
とあの木を指差して、その香りを楽しめたらどんなにか良かったろう。
今となっては、金木犀の甘い香りがどうにも息苦しく感じられるのだ。

あの木が、どうか私の知らぬ木でありますように。息苦しい香りの中で、今はそう願っている。